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デザイン判例帳

アパレルデザインを中心に,デザイン関連の裁判例などをメモしていきます。

保護されない「ありふれた」デザインとは?

最近プロダクトデザインの法的保護に関する判決が立て続けに出ているので(知財高判平成28年10月13日平成27年(ネ)第10059号[幼児用箸]知財高判平成28年11月30日平成28年(ネ)第10018号[スティック加湿器]知財高判平成28年12月21日平成28年(ネ)第10054号[ゴルフシャフト]),これらを見て気になったことを取り急ぎメモしていこうと思います。

まずは,法的に保護されない「ありふれた」デザインについてです。

 

プロダクトデザインを保護しようとするときに思い浮かぶ権利(法律)といえば

意匠権

・不競法2条1項3号(形態模倣規制)

・不競法2条1項1号・2号(周知著名商品等表示の使用規制)

・商標権(立体商標

著作権(応用美術)

がありますが,細かい要件論はともかく,いずれによっても「ありふれた」デザインは保護されないことと思います。

 

ここで気になったのが,この保護されない「ありふれた」デザインの具体的内容です。

つまり,「ありふれた」とは,同種商品にありふれていることをいうのか,それとも広く一般的にありふれていることをいうのか,という疑問です。

知財高判平成28年11月30日平成28年(ネ)第10018号[スティック加湿器]を見ると,加湿器の形態について,

 

控訴人加湿器1の具体的形状・・・は,通常の試験管が有する形態を模したものであって、従前から知られていた試験管同様に,ありふれた形態であり・・・既存の試験管の中からの適宜の選択にすぎないのであって,個性が発揮されたものとはいえない。」(下線は筆者)

 

として,同種商品ではない「試験管」の形態としてありふれていることをもって創作性(著作物性)が否定されていたため,ふと気になった次第です。

 

この点,他の権利(法律)ではどのように考えられるのかについて以下で検討してみます。

 

まず,不競法2条1項1号・2号及び商標権(立体商標)によってプロダクトデザインが保護されるためには,出所識別力に関する要件を満たす必要がありますが,同種商品にありふれたデザインは識別力を持ち得ない一方で,同種商品においてありふれたデザインでなければ識別力を発揮して当該要件を満たし得るように思います。

そのため,不競法2条1項1号・2号及び商標権(立体商標)で保護されない「ありふれたデザイン」は,ひとまず「同種商品においてありふれたデザイン」と整理します。

 

つぎは意匠権です。

登録要件のうち新規性(意匠法3条1項)については,公知意匠と対比する際に物品の同一・類似性も判断されるので,意匠権で保護されない「ありふれたデザイン」とは,同一・類似物品においてありふれたデザイン,ひいては「同種商品にありふれたデザイン」と考えられるようにも思います。

しかしながら,登録要件のうち創作非容易性(意匠法3条2項)については,「物品を離れた,モチーフとしての形状,模様,色彩を基にして,創作という行為の面からその程度を見定めるものであり」*1,例えば以下①~⑥のような場合には創作非容易性を満たさないとされています*2

 

①公知の一つのモチーフ(自然物,建造物,著作物,模様,図形,記号等)をさほどの変更をすることなく,単純に物品の形態に用いた程度の意匠(例えば水玉模様の織物地,紅葉型のブローチ)

②非類似物品間における商慣習上の転用(例えば,周知の乗用車の形態を模した自動車おもちゃ)

③公知のモチーフの単純な組合せ(例えば,東京タワーと自由の女神像を方形板状に単純に併置した置物)

幾何学的数学的形態を単純に物品の形態とした意匠(例えば正8角柱状の建築用柱)

⑤物品の用途機能の単純な合理的追及の結果自ずから定まる形態の意匠

⑥複数の公知意匠の全体若しくは部分形態の単純な組合せによる意匠(例えば前半部をベンツ形,後半部をジャガー形とした乗用車)

 

そうすると,創作非容易性の観点からは,一定の異種商品にありふれたデザインをも保護対象から除外していると考えられます。

そのため,意匠権で保護されない「ありふれたデザイン」は,必ずしも「同種商品においてありふれたデザイン」に限られないと整理できるように思います。

 

※上記①~⑥ような場合だと,不競法2条1項1号・2号及び商標権(立体商標)であってもほとんど識別力に関する要件を満たさないような気もしますが・・理論的には満たし得ると考えていったん次に進みます。

 

では,不競法2条1項3号はどうでしょうか。

不競法2条1項3号は,明文において「ありふれた形態は保護しない」と規定しているわけではありません。しかし,

 

「当該他人の商品と同種の商品(同種の商品がない場合にあっては,当該他人の商品とその機能及び効能が同一又は類似の商品)が通常有する形態」

 

を保護対象から除外する旨規定していた平成17年改正以前の条文の下で除外されていた形態は,現行規定の下でも除外されることになると考えられており*3,その結果ありふれた形態は保護されないものと理解されています*4

そして,ありふれた形態を保護対象から除外する理由については「本号の趣旨からして,それなりの費用と時間をかけて努力した上に開発した成果であることが全くうかがえないような同種の商品が通常有するところのごくありふれていて特段これといった特徴のないような形態は,その保護に値しない」*5等と説明されています。

そうすると,不競法2条1項3号で保護されない「ありふれた形態」とは,基本的には「同種商品においてありふれた形態」であるようにも思える一方で,個別具体的ケースにおいては異種商品にありふれている形態の転用が極めて容易であること等の事情により「それなりの費用と時間をかけて努力した上に開発した成果であることが全くうかがえない」と判断されるケースもあり得るように思うのですが・・どうでしょうか。

とはいえ,少なくとも知財高判平成28年11月30日平成28年(ネ)第10018号[スティック加湿器]の事案において「試験管の形状としてありふれており,加湿器に転用することも極めて容易であるから,費用と時間をかけて努力したうえでの開発成果といえず,商品形態として保護されない。」等といった判断はされないように思います(実際に当事者からもそういった趣旨の主張はなされていないようで,そのような判断はされておりません。)。

そうすると,少なくとも前述の著作権における「ありふれた」デザインの考え方とは異なりそうです。

 

と,ここまで見てきたところによると,

不競法2条1項1号・2号及び商標権(立体商標):同種商品にありふれていなければ識別力を発揮し得るため,異種商品にありふれたデザインであっても保護され得る?

意匠権:異種商品にありふれたデザインをもって当業者が容易に創作し得るような場合には,異種商品にありふれたデザインは保護されない。

不競法2条1項3号:同種商品にありふれたデザインでなければ基本的には保護されそうであるが,異種商品にありふれたデザインをもとに何らの投資なくして開発できたといえるような場合であれば,異種商品にありふれたデザインについても保護されない可能性がある?

著作権:同種商品かどうかにかかわらず,表現としてありふれていれば保護されない?*6

 

といったまとめになりそうですが・・・いまいちまだ整理・検討しきれておりません・・。

 

結局のところ,各権利(法律)の趣旨からして「保護に値するかどうか」といった観点から考えることになるように思うのですが・・・

現時点ではこの辺にしておこうと思います。 

 

 

 

*1:斎藤瞭二『意匠法概説[補訂版]』(有斐閣・1995年)93頁

*2:満田重昭,松尾和子編『注解意匠法』(青林書院・2010年)166頁[森本敬司]

*3:経済産業省知的財産政策室編著『逐条解説不正競争防止法〔平成21年改正版〕63頁

*4:当該論点に関する比較的最近の裁判例の分析を行うものとして,泉克幸「不正競争防止法2条1項3号とありふれた形態」( Law&Technology No.67・2015年)を参照。

*5:山本庸幸著『要説不正競争防止法(第3版)』(発明協会・2002年)140頁

*6:そもそも論として,プロダクトデザインが著作権により保護され得るのかという点については,別記事で書く予定・・です。